モノづくり大国、日本。愛知県には、トヨタを筆頭に屈指の優良企業がひしめいている。かたや、就労支援事業所数においても当県は全国トップクラスに入る就労支援大国だ。ところが、障害者の雇用率を見ると、なんと当県は全国ワーストクラスなのだ。ちなみに厚労省が、全労働者数に対する障害者雇用数の割合を2%(法定雇用率という)以上と義務付けている企業(従業員数50名以上)の実雇用率を2014(2013)年にまとめた調査結果は次の通りである。
- 実雇用率トップ10:山口46(2.33)大分2.28(2.15)佐賀2.27(2.17)福井2.26(2.27)奈良2.22(2.22)岡山2.16(1.93)長崎2.15(2.1)宮崎2.15(2.04)沖縄2.15(2.12)熊本2.14(1.97)
- 実雇用率ワースト10:愛媛74(1.73)愛知1.74(1.68)宮城1.74(1.71)新潟1.75(1.65)神奈川1.75(1.68)茨城1.75(1.66)栃木1.76(1.68)福島1.76(1.69)東京1.77(1.72)千葉1.77(1.71)
成績の良い県は西に、悪い県は東におおむね集中するという数字分析はさておき、問題視したいのは、就労支援大国愛知県の障害者実雇用率がこれほど低いのは何故かということだ。私なりの解釈による結論を先に言えば、当県の行政および設置法人の体質が古すぎて時代にそぐわないということだ。その理由を述べる前に、対象者の想定から就労支援の3形態をご説明しておきたい。
- 就労移行支援:一般就労(民間への就職)が可能と見込まれる者。利用期間は2年。
訓練中心で賃金支給の制約はない。
- 就労継続支援A型:一般就労が困難であり、支援事業所との雇用契約による就労が可能である者。
利用期間の制限なし。賃金は最低賃金法に基づく。平均賃金月額68,691円 (2012年)。
- 就労継続支援B型:一般就労が困難であり、支援事業所との雇用契約による就労が困難である者。
利用期間の制限なし。賃金の下限は月3000円。平均賃金月額14,190円 ( 2012年)。
①、②、③または生活介護などの支援を多機能型として併設している事業所も数多い。設置法人の約3/4は社会福祉法人である。
さて、当地域の法定雇用率がトホホ的状況である理由は何か。
一つには数字のからくりがある。当県はA型事業所数は全国1位だが、定員50以上の事業所が数少ないことから、そこで働く障害者が雇用率にカウントされないことだ。そもそも、法定雇用率を上げたいばっかりに制度化した厚労省施策が裏目に出たということだ。とりわけ精神障害者にとってはハードルの高い一般就労よりもA型事業所を優先的に紹介してきた行政の浅はかさ、いわば制度矛盾である。
そして、もう一つが本質的問題だ。当地域においては、一般就労ではなく福祉就労に囲い込む古い体質が抜けきっていないことだ。具体的に言うと、就労移行支援事業所でありながら、一般就労実績をつくらないまま、期間が過ぎると継続支援へと送り込んでしまうのである。また、昨今急速に利用者登録数を伸ばし、一般就労を希望する精神障害者には目を背け、身体または知的障害者にしか門戸を開かない事業所や個々の特性を見ずに利用者を十把一絡げに扱う従来型授産施設がいまだに多いことである。例えば、福祉課と連動した社会福祉法人が運営する計画相談事業所や障害者就業・生活支援センターなどがそんな旧態依然とした風潮を固持している。たとえ、社会福祉士や精神保健福祉士が何人いようと、利用者が希望する一般就労を実現できなければ何の意味もない。
もっとも、福祉系大学を経て、現場経験がないまま福祉士の資格を取得し、教科書に忠実なことが良い支援だと思っている人たちに、まともな就労支援ができるとは思わない。ましてや、成果が上がらなくても責任を問われることのない手前都合のルールに守られて、受け身一辺倒、前例を踏襲することが仕事だと思っている役人たちに一般企業の何がわかる?
そんな思いの中、先日沖縄県にある就労移行支援事業所を訪れた。障害福祉サービスから一般企業への就職率は全国平均で約4%、就労移行支援事業所からは約20%という厳しい現状で、実に80%を超える驚異的な就職率を達成している事業所だった。そこで目の当たりにした目から鱗の現実を次回にリポートさせていただきたい。
(Sakai)