沖縄県北谷町、米空軍嘉手納基地にほど近い商業区域にその福祉施設がある。カーナビで訪問した際、少しアートっぽい外観のカフェレストランにたどり着くも、通常目にする「就労支援事業所○○」とかの看板がないため、すぐ隣の百円ショップから場所確認の電話を入れた。「えっ、このカフェがそうなんだ」と思ってしまうほど福祉施設らしくないのだ。実は、これが就労支援施設アソシアの基本コンセプトだったのである。
- オシャレだから通いたくなる。
中に入るとさらに驚いた。誰が職員で誰が利用者なのか全く見分けがつかないのだ。厨房、ホール、事務所などそれぞれの持場で、それぞれふさわしいワークウェアを身にまとっている。外だけでなく中も福祉施設らしくない、さながら一般企業だ。しかもオシャレでカッコいい。そして、案内してくれた施設長宮里氏にいたっては「若きスーパーバイザ」と呼びたくなるほど誰よりのイケメン。オシャレな施設で…オシャレなカッコして…明るい気持ちで働きたい。誰しもが望む当たり前のモチベーション。あらためて気付かされた思いがした。ちなみに、プロ級にオシャレなパンフレットは株式会社アソシア社長自らがデザインしたものだった。単色を基調としたシンプルで直感的な色使いは、いささかWindowsやUNIQLOのパクリ感はあるものの、若者にウケるトレンドだ。社長はかつてデザイナーだったらしいが今尚現役か?なるほど、うなずける。
- スペシャリストから実践で学ぶ。
スタッフの平均年齢は30代前半。福祉畑しか知らない指導員は一人もいないという。接客コースにはホールマネージャ、調理コースにはシェフ、製菓コースにはパティシア、庶務コースにはオフィススペシャリスト、清掃コースにはクリーニングインストラクター、製作コースにはクラフトマンといった具合に、六つの訓練コースすべてにその道のスペシャリストを配置している。徹底した実践型訓練には本番さながらの緊張感が漂う。「厳しいけど充実している」訓練生の目がそう物語っていた。80%を超える高い就職率はここから生まれていたんだ…。元システムエンジニアで作業療法士の経歴を併せ持つ宮里氏が人員配置およびコンテンツ全体設計に関わった。なるほど、ここにもスペシャリストの設計思想が色濃く出ていた。
- 継続の原動力はコミュニケーション能力。
施設内全コースを見学させてもらったが、スタッフだけでなく、すれ違った訓練生すべてが笑顔で挨拶してくれた。宮里氏は「一般に精神に障害を持つ人はコミュニケーションが苦手です。とかく対人関係でストレスを溜めてしまうことが多い訓練生たちに心理学を学ばせています。そうして、コミュニケーション力が高まれば、職場でのストレスも減り、結果、長く仕事を続けることができます。定着支援にもつながりますね」と、「社会的適応能力の回復」という作業療法士の一側面をいみじくも語っていた。一級の職業訓練校を凌ぐ一級の福祉施設ここにあり、てなところだろうか。
- カフェレストランAssociaは本番。
私たち二名は宮里氏の施設案内から離れ、カフェで昼食を摂った。デザートとコーヒー付で1,000円のバイキングランチ目当てに満席近い 混み合いの中、ちゃっかりと予約席に座るやいなや、訓練生らしき女性店員が「お待ちしておりました」とばかり現われ出てきた。
予約客とはいえグルメ評論家でもない私たちに、素材の説明から取り皿の使い方まで実に丁寧な説明をしてくれる。ファミレスなどにありがちな杓子定規な応対とは対照的だ。そんな、臨機応変のスキルを既に自分のものにしている訓練生がいれば、片方、カウンターの向こう側でマントゥマンの指導を受けながらうなだれている訓練生がいる。店がオープンすればすべてが本番、これが実践型訓練の日常なんだと理解した。余談だが、私は過去沖縄で、ホテル食以外においしい食事をいただいた記憶はなかったが、ここでの料理は格別においしかった。
また、一方の連れは感極まったのか、涙を流しながら食べていた。
オシャレ、スペシャリスト、コミュニケーション、これら三つのキーワードが利用者のモチベーションを創出し、Associaのホスピタリティに結集している。あらためて考えれば当たり前、言うは易し、されど行うは難し、観光立国沖縄ならではの就労支援である。
(Sakai)